前立腺がんの治療
前立腺がんはどう治療するの?
前立腺がんには、「手術療法」、「放射線療法」、「内分泌療法(ホルモン療法)」など、さまざまな治療法があります。これらの治療を単独あるいは組み合わせて行います。
治療法は、がんの進行度(広がり)や悪性度、また、患者さんの全身状態、年齢などを考えて、最適な方法を選択することになります。主治医とよく相談の上、納得のいく治療法を選択するようにしましょう。
手術療法 |
前立腺全摘除術
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放射線療法 |
外部照射療法
組織内照射療法
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内分泌療法 (ホルモン療法) |
去勢術(精巣摘除術)
・LH-RH(GnRH)アゴニスト
・LH-RH(GnRH)アンタゴニスト
・抗男性ホルモン剤
・女性ホルモン剤
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PSA監視療法 | 定期的なPSA値の検査で経過観察 |
化学療法 (抗がん剤による治療) |
植物アルカロイド、アルキル化剤等 |
緩和的療法 | 疼痛対策、脊髄麻痺対策 |
局所進行性前立腺癌の治療選択
限局性前立腺癌に対する各治療法に関しての評価が定まりつつある一方で、high Gleason score、局所進行性前立腺癌をはじめとするいわゆるhigh risk例の治療選択は容易ではありません。Bousteadらは、即時あるいはアジュバント内分泌療法と、遅延内分泌療法との7つのRCTのメタアナリシスにおいて、すべての評価項目における早期内分泌療法の有効性を報告しました(BJU Int 99:1383, 2007)。内分泌療法の適切な期間については、D’Amicoらは放射線治療後のアジュバント内分泌療法の3つの前向きRCTのデータを解析し(対象はN0かつT3以上であらゆるgrade、あるいは限局癌かつhigh grade)、治療期間3年間と6ヶ月間との間に全生存率の差を認めませんでした(Cancer 109:2004, 2007)。リンパ節転移例でのこれまでの検討結果に反しSpiessらは、全摘術時にリンパ節転移陽性で即時アジュバント内分泌療法あるいは生化学的再発後の遅延内分泌療法を受けた患者のレトロスペクティブな解析で、無転移率、全生存率に差を認めませんでした(BJU Int 99:321, 2007)。早期内分泌療法の最もよい適応は、短いPSA倍加時間、よりPSA値の高い症例でした(Current Opinion in Urology 18: 263, 2008)。Surveillance, Epidemiology and End Results (SEER)のデータとMedicareのデータから、リンパ節転移陽性例に対して全摘術後の内分泌療法開始時期を遅らせても生存率を有意に低下させない可能性が示唆された(J Clin Onco 27: 100, 2009)一方、即時内分泌療法を支持するRCTもあります(Lancet Oncol 6; 472, 2006)。
ホルモン療法
ホルモンが発育に関わるがんに対して、ホルモンの働きを抑える薬を用いる治療法です。
がんの場合は、主に乳がん、子宮がん、前立腺がんで使われています。がんの成長に関係しているホルモンが作られるのを抑える効果や、ホルモンががんに作用するのを妨げる効果をもつホルモン剤を使っておこなう治療法です。副作用が化学療法剤と比べて少なく、長期に使うことができます。
主な副作用は、ほてり、女性化乳房、性腺機能低下、骨粗鬆症などです。ホルモン療法は、内分泌療法と呼ばれることもあります。がんの種類によって治療法は異なりますが、放射線療法などと組み合わせて使用されることもあります。
進行前立腺癌治療の第一選択は内分泌療法です。近年、新規治療法が提唱され、新たな内分泌療法の時代が到来しています。今後の課題として、各患者において各種内分泌療法のうちのどれをいつ選択すべきかという治療の個別化が必要とされています。CAB(Combined Androgen Blockade)療法の有効性を大規模RCTで初めて示したのはCrawfordら(NEJM 321: 419, 1989)で、CAB療法(LH-RHアナログ+非ステロイド性抗アンドロゲン剤)を行った転移性前立腺癌患者の生存期間中央値が、LH-RHアナログ単独治療と比較して約7ヶ月延長(35.6ヶ月 vs. 28.3ヶ月;p=0.035)しました。ビカルタミドを用いたCAB療法と去勢(LH-RHアナログ)単独治療を比較した世界で初めてのRCT (Cancer 115: 3437, 2009)では、これまでRCTで証明されていなかったビカルタミドのCAB療法によるサバイバル・ベネフィット(全症例の解析で全生存期間の有意な改善)を認めました。局所進行あるいは転移性前立腺癌患者において、ビカルタミド80mgを用いたCABにより、LH-RHアナログ単独療法よりも有意に高い全生存率が得られ、それに伴う忍容性低下はみられませんでした。またサブグループ解析で病期D2よりも病期C/D1に対する有効性に優れ、サバイバル・ベネフィットを認めました。病期D2の全生存、癌特異的生存に差を認めませんでしたが、解析患者数が203例と少なく、統計学的検出力が十分でなかった可能性が指摘されています。また、PSA nadirが1 ng/mlに達するかどうかが治療効果の予測因子になる可能性が示唆され、PSA nadirが1 ng/ml以下に低下した患者の割合は、LH-RHa単独群が51%(52/101例)であったのに対し、CAB療法群は83%(85/102例)でした。2004年に報告された初回解析結果(Jpn J Clin Oncol 34: 20, 2004)では、CAB療法群とLH-RHアナログ単独群の投与中止率に差を認めず、むしろCAB療法群の方が低い結果でした。2007年の追跡期間中央値127週の解析結果(Prostate Cancer Prostatic Dis 10: 194, 2007)では、CAB療法群においてPSA正常化までの期間や治療成功期間、無増悪期間が有意に改善しましたが、死亡例が少なく生命予後の改善は認めませんでした。2008年のQOLの解析結果(J Cancer Res Clin Oncol 134: 1385, 2008)では、ビカルタミドを用いた場合にはQOLを損なうことなく、むしろFACT-Pの前立腺癌特異的な評価項目の早期改善を認め、身体的にも情緒的にも良い影響を与えることを示唆していました。