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ロボット手術支援システム「ダヴィンチ」による前立腺全摘除術

ロボット手術支援システム「ダヴィンチ」

 現在の外科手術では、胸やおなかにあけた小さな傷口に内視鏡や鉗子などの器具を差し込み、モニターをみながら執刀する「内視鏡化手術」が普及しています。これを、さらに安全性を高めて手術ができるように進化させたのがロボット手術「ダヴィンチ」です。ただ、「ロボットが手術をする」といっても、すべてが自動化され、ロボットが勝手に手術をするわけではありません。あくまで術者がより正確、確実に執刀できるように支援するシステムであり、ロボット手術というよりもむしろ「内視鏡化手術支援装置」と呼ぶほうがふさわしいと思われます。

 製造するのは米国のインテュイティブ・サージカル社(Intuitive Surgical Inc.)で、元々は、戦場で負傷した兵士を遠隔地から治療するために軍事開発されました。その後、米スタンフォード大学などに技術が引き継がれ、会社設立に至ったということです。世界で初めての手術は、1997年にベルギーで実施された心臓手術でした。2000年に米国食品医薬品局(FDA)から承認され、日本では2009年に薬事承認がおり、2013年3月で導入台数は100台を突破しています。米国ではすでに、前立腺がんに対する前立腺全摘除術ではこのロボット手術が主流となっています。ロボット手術では、患者の腹部に小さな穴をあけて内視鏡とロボットアームを挿入し、医師は内視鏡の画像を見ながら操作します。医師の手の動きは、ロボットアーム先端の鉗子やメスに伝えられ、手術が進められます(1)。

前立腺癌とは

前立腺がんは、「前立腺」のがんですが、この「前立腺」についてご存知でしょうか?前立腺は、男性だけにある生殖器官の一つです。ちょうど栗の実大の大きさと形をしていて、膀胱の真下に尿道を取り囲むように位置し、後ろの方は直腸に接しています(図2)。前立腺がんは高齢の男性に多い病気です。昔に比べて増加しており、社会全体の高齢化、食生活の欧米化などから、今後も増加傾向が続くと予測されています。また、前立腺がんは他のがんに比べて病気の進行が遅く、何年もかかってゆっくり進行するといった特徴があります。初期のうちは症状がほとんどないことが多いので、早期発見、早期治療がとても大切です。そのためには正しい知識を持つこと、前立腺がんの検診を受けること、この2つが極めて重要になります。

前立腺がんは、欧米では男性のがんの中で大変多いがんとして知られています。米国では、男性のがんの中で「罹患数」は第1位、死亡数は肺がんに次いで2位と、最も多いがんの一つとなっています。わが国においてはまだそれほど多くはありませんが、泌尿器科で扱う男性のがんの中では、罹患率、死亡率、ともに最も多いのが前立腺がんです。また、将来的には最も増加するがんの一つと考えられており、2020年には肺がんに次いで罹患数の第2位になると予測されています。

「ダヴィンチ」による前立腺全摘除術

 米国でロボット手術が普及し、日本でも導入されつつある背景に、前立腺全摘除術の技術的な難しさがあります。前立腺は狭い骨盤の奥にあり、近くに血管や尿道括約筋、勃起神経、直腸があるため、出血しやすく、術後に尿失禁や性機能障害などが起こる可能性があります。「ダヴィンチ」というロボットには、狭い空間でも良好な視野を得て、精緻な操作を可能にするさまざまな機能があります。「ダヴィンチ」のもつ『滑らかな操作が可能な鉗子』、『高画質の3D画像』、『医師の手の動きを縮小して伝える機能』、『手の震えを制御する機能』などを活用することで、より安全・確実に手術を行うことが可能になると考えられています。

 われわれ医師にとって「ダヴィンチ」が画期的なのは、ロボットアーム先端部の細かく自由自在な動きと精度の高さです(図3)。従来の開腹手術や腹腔鏡・胸腔鏡手術では困難であった細い血管、尿道の吻合などを、立体拡大画像を見ながら、手ぶれもなく正確に、スムーズに行えます。手技が正確に行えれば、術中のトラブルも少なくなり、またそれだけ回復が早く、術後のQOLに与える影響も小さくなり、それは直接、患者さんにとっての大きなメリットにつながります。

 日本では、2012年4月に「ダヴィンチ」が前立腺全摘除術に対して初めて保険適応が認められ、ようやく国内の医療現場への本格的普及に弾みがつきました。患者さんの体に与える負担が小さい、出血が少ないなどロボット手術のメリットをはじめ、改めてその有用性と可能性が認識されるようになり、「ダヴィンチ」導入の先駆けとなった泌尿器科領域から、さらにさまざまな分野へ広がっていくと思われます。実際、消化器外科や胸部外科、婦人科の手術などにもこのロボットの利用が広がっており、今後の展開が期待されています。

前立腺がんに対するロボット支援手術の治療成績

前立腺がんに対し、私は千葉大学にてこれまでも侵襲の少ない腹腔鏡手術を積極的に行ってきました。この腹腔鏡下前立腺全摘除術に関しては2007年よりすでに150例以上の経験を有し、がんの根治とともに術後QOLの向上として尿禁制改善と、可能な症例では陰茎海綿体神経温存術式による術後性機能保持を目指した精緻な手術を行っていました(AstraZeneca Operation Forum 第1回 腹腔鏡下神経温存前立腺摘除術 千葉大学医学部附属病院 泌尿器科 今本 敬 2012年2月掲載)。

2012年2月よりロボット支援手術を導入し、同年4月より保険診療で行ってきました。これまで270例に施行し、術後早期からの機能回復がみられています。他の術式と比較した尿禁制率(パッド≦1枚/日)は図4

に示すとおり、ロボット支援手術の初期成績に関しては、導入期としては遜色ない結果が得られています。術後3ヶ月での性機能保持は50%でした。

今後の展望

 現時点で「ダヴィンチ」の普及を阻んでいる最大の問題は、装置の価格の高さです。現在は米国の1社による独占が続いていますが、イノベーションの常として今後、「ダヴィンチ」と同等かさらに優れた機種が他社から発売されれば、競争が起こり価格も下がってくると考えられます。日本でも政府の成長戦略のひとつに医療機器の開発などが取り上げられていることもあり、手術ロボットの開発が進んでいます。「ダヴィンチ」などの技術が可能にする、患者さんにやさしい外科治療の進歩にこれからも期待していただきたいと考えます。

 

 

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