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副腎の病気

 副腎とは

副腎とは腎臓の上に位置する約2~3cmの小さな三角形の臓器で、左右1対ずつあります。1つは約4~5g程度の小さな臓器ですが、人が生きるために必要なホルモンを分泌するとても大切な臓器です。

ホルモンの働き

副腎は大きく分けると皮質と髄質に分かれており、皮質からはアルドステロンとコルチゾールおよびテストステロン、髄質からはアドレナリンとノルアドレナリンというホルモンが分泌されます。

  • アルドステロンは体内の塩分や水分の調節をしたり、血管に直接働きかけたりすることで血圧の調節をします。また血液中のカリウムという電解質を減らす作用もあります。
  • コルチゾールは血圧を上げたり、血液中の糖や脂肪分を増やしたりする働きをしており、人間が生きるのに必要なホルモンです。ストレスを受けると血液中にコルチゾールが増えるので、ストレスホルモンとも呼ばれています。
  • アドレナリンとノルアドレナリンはどちらも血圧や脈拍を調節する大事なホルモンです。

副腎の病気とは

副腎疾患には大きく分けて2つの病態があります。ホルモンの分泌が多すぎる場合と、少なすぎる場合です。

分泌が多すぎる原因の1つに、副腎にできるおでき、つまり副腎腫瘍(しゅよう)があります。

過剰になるホルモンの種類によって症状や病態が異なるため、それぞれに病名がついています。

 

  • 原発性アルドステロン症 Primary aldosteroidism

    副腎皮質からアルドステロンが過剰に分泌されるため、高血圧になります。実際高血圧と診断されている方の5~6%はこの原発性アルドステロン症が原因と言われています。また血液中のカリウムが少なくなる低カリウム血症という状態になることがあります。長い間アルドステロン過剰の状態が続くと、脳や心臓、血管、腎臓などの臓器に悪影響を及ぼすことがあります。

    原発性アルドステロン症は低レニン性高アルドステロン血症を示す高血圧症であり、副腎静脈サンプリングにてアルドステロン過剰分泌が片側性か両側性かを確認して手術適応を決めます。片側副腎病変(腺腫:aldosterone-producing adenoma:APA 等)がアルドステロン過剰分泌の原因となる際は、片側副腎切除で治療します。

    クッシング症候群 Cushing syndrome

    コルチゾールの分泌が過剰となる疾患です。顔が丸くなる(満月様顔貌)、ニキビが増える、首の後ろや背中が盛り上がる、お腹に脂肪がつく、毛深くなるなどの症状が目立つようになります。また高血圧、糖尿病、高脂血症、骨粗しょう症などをおこします。

    クッシング症候群/サブクリニカルクッシング症候群は,副腎皮質からコルチゾールの慢性的な過剰分泌により引き起こされる病態であり,長期間に渡る高コルチゾール血症の影響で,高血圧や低カリウム血症,耐糖能異常・糖尿病,肥満,心血管系疾患,筋力低下,横隔膜拳上による呼吸機能の低下,骨粗鬆症・病的骨折,易感染性,精神神経症状など周術期管理の上で様々な問題を抱えていることが多いです。また、尿中カルシウム増加のため尿路結石を生じやすく,易感染性と重なって閉塞性腎盂腎炎のリスクが高いことも認識しておく必要があります。

    コルチゾール産生腺腫はCTで中等度の造影効果を示し、131I-アドステロールシンチで腫瘍側にだけ核種の集積を認めるのが特徴とされます。overnight DXM 抑制試験では、正常例ではコルチゾール値は測定限界(1~4μg/dl)まで抑制されますが、抑制不良であればコルチゾール自律産生ありと判定されます。ACTH低値(10pg/ml以下)もコルチゾール自律産生を示唆しますが、特異性に劣ります。ほかに、尿中コルチゾール測定、CRH負荷試験による下垂体抑制の評価が行われます。DHEA-S高値であればアンドロゲン産生腫瘍(特に副腎癌)を疑い、更に尿中17-KS、(17-OH)プロゲステロン、(17-OH)プレグネノロンを測定します。術後のステロイド補充は150-200mg/日からの開始が推奨されています。原発性大結節性副腎皮質過形成(Primary macronodular adrenal hyperplasia; PMAH)において、顕性のCushing徴候を有する症例では摘除が基本であり、subclinical Cushing 症候群でも摘除によるコルチゾール産生量低下、術後の状態改善が期待されます。ただし、片側摘除によるコルチゾール低下、ACTH上昇から、対側副腎がACTH依存性に数年かけて過形成を来し、十数年後には片側摘除前と同様のホルモン動態、症状を呈する場合があります。その場合は対側も全摘除が必要になる可能性があり、永久的なコルチゾール補充を要します。サブクリニカルクッシング症候群の診断基準の一つとしてコルチゾール分泌の自律性があり、デキサメサゾン(1mg)抑制試験で血中コルチゾールが5 ug/dl 以上はクッシング症候群、3~5 ug/dlが本症と診断されます。サブクリニカルクッシング症候群の手術適応については議論の多いところですが、腹腔鏡下副腎摘除術を受けた55 症例 (観察期間1~16年:中央値2.9年)の長期成績では、高血圧と耐糖能の有意な改善を認めています。副腎皮質癌は副腎皮質に発生する予後不良のまれな悪性腫瘍で、罹患率は1~2人/100万人と非常に低く、男女比:1:1.5と女性にやや多いです。好発年齢は二峰性のピーク(5歳未満と40~50歳代)を有し、ホルモン産生能では産生癌 60%,非産生癌 40%であり、20~30%が偶発腫瘍として発見されます。予後的には、術後85%が局所再発,遠隔転移を来し、5年生存率は16~47%とされます。副腎皮質癌に対しては、比較的小さい限局癌に対する腹腔鏡手術と開腹手術の成績はほぼ同等とする報告もありますが,腹腔鏡手術は開腹手術と比べ断端陽性率や癌性腹膜炎発生率が高いとする報告もあります。

    褐色細胞腫 Pheochromocytoma

    副腎髄質や交感神経節からアドレナリン、ノルアドレナリンが過剰に分泌され、高血圧や高血糖になります。頭痛、汗を多量にかく、体重減少、頻脈などの症状が特徴です。これらの病態や症状がいつも続くのではなく、発作的に出ることがあります。褐色細胞腫の10%は副腎外(交感神経節など)に発生し、10%は転移を起こす悪性腫瘍であり、10%は多発性なので『10% 病』と言われています。腫瘍径の大きな褐色細胞腫については、6cm以上を対象とした腹腔鏡手術と開腹手術との比較にて、腹腔鏡手術では手術時間がより長いものの、出血量や術後回復、入院日数において優位であり、術中の循環動態イベントや術後再発に差を認めませんでした(Am J Surg 210:230, 2015)。4または6cmをカットオフとした腫瘍径での褐色細胞腫腹腔鏡手術の成績比較では、手術時間、循環動態、開腹移行、合併症率、入院日数に有意差を認めませんでした(Int J Surg 11:152, 2013)。

    副腎偶発腫

    偶発腫とは検診や他の病気の検査などを行った際に偶然見つかる副腎腫瘍のことをいいます。偶発腫の半数はホルモンを産生しないホルモン非産生腫瘍です。ホルモンを産生したり、腫瘍が大きくなったりする場合は手術が必要となることがあります。

治療法

副腎からのホルモンが過剰になることで、高血圧や高脂血症、糖尿病などの様々な病気が二次的に引き起こされるようになります。これらは血圧や血中の脂肪分、血糖を下げる薬などである程度抑えることもできますが、薬だけでは充分に改善されないこともあります。

副腎にできた腫瘍からホルモンが過剰に作られていることが詳細な検査(CT、シンチグラム、副腎静脈サンプリング、負荷試験)ではっきり分かっている場合、腫瘍を副腎ごと手術で摘出する治療を行います。これが副腎摘出術といって、私たち泌尿器科が行っている外科的治療です。

副腎静脈サンプリングという検査は、どこからホルモンが過剰に作られているかを判断する非常に重要な検査ですが、どこの病院でもできるものではありません。当院のホルモン疾患を扱う内分泌内科では、この検査を副腎腫瘍が疑われる患者さんに行うことで、より確実な診断をすることが可能となっています。

手術はお腹を大きく切って行う手術ではなく、お腹の中にカメラをいれて副腎を摘出する腹腔鏡(ふくくうきょう)手術を主に行っています。体には約1cmの傷が3〜4カ所で手術を行うことができますので、お腹を大きく開ける手術に比べて傷の痛みも軽く、手術の翌日から歩くことができます。

高血圧があってきちんと薬を内服しているのになかなか血圧が下がらない方や、急に太り始めたり、体の毛が濃くなったり、顔が丸くなったりした方は、ぜひ内分泌内科を受診し副腎に腫瘍などの異常がないか一度調べてもらいましょう。

当院は千葉大学・内分泌内科、泌尿器科と連携して診療しております。内科的管理は内科で、手術は泌尿器科で行う等、理想的な連携ができております。千葉大学では14年間、年間40〜50件の副腎手術、診療に携わってまいりました。お気軽にご相談ください。

 

以下は院長執筆書籍です。院内で貸し出しも可能です。

  1. 今本 敬,鈴木啓悦,市川智彦(2009)腹腔鏡下副腎摘除術:後腹膜到達法.Ⅰ. 副腎腫瘍に対する手術.新Urologic Surgeryシリーズ 4 良性腎疾患・副腎・後腹膜の手術.松田公志,中川昌之,冨田善彦編, メジカルビュー社, 東京,24-35.
  2. 今本 敬、川村幸治、市川智彦(2017)副腎癌.疾患別:実施すべき検査と典型所見.泌尿器科検査パーフェクトガイド.臨泌 71, 248-259.
  3. 今本 敬、市川智彦(2017)褐色細胞腫.疾患別:実施すべき検査と典型所見.泌尿器科検査パーフェクトガイド.臨泌 71, 269-277.
  4. 今本 敬 (2015) Ⅲ.褐色細胞腫・パラガングリオーマ. 第16章 内分泌・生殖機能・性機能:副腎腫瘍診療の実際. Educatinal courses of JUA 20(1), 359-363.
  5. 今本 敬(2014) 原発性アルドステロン症Update.PA診療ガイドライン.映像情報Medical 46, 1048-1050.
  6. 今本 敬,川村幸治,市川智彦 (2014) 褐色細胞腫. 特集 副腎腫瘍を再考する-診断と最新の低侵襲治療.臨泌 68, 594-599.
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