前立腺肥大症
前立腺とは?
前立腺といってもどこにあるのか簡単には思いつかないのではないでしょうか。前立腺は膀胱のすぐ下にあるクルミぐらいの大きさ(成人で約20グラム)の臓器で、精嚢(せいのう)と一緒に精液をつくる役目を果たしています。そして、この真ん中を通っているのが尿道です。また前立腺は膀胱の出口の開け閉めにかかわり、排尿のコントロールにも関係しています。
前立腺肥大症
一般的に男性は年をとってくると、若い頃に比べて尿が出にくくなります。その原因の中で最も多いのが、前立腺肥大症です。前立腺が大きくなると、内側の尿道を圧迫したり、前立腺の筋肉が過剰に収縮して尿道が圧迫されるために、尿が出にくくなるなどの排尿障害があらわれるようになります。前立腺肥大症による排尿障害を長い間放っておくと、肥大が進み、膀胱に残る尿の量が増え、感染や腎不全などの病気を引き起こすことがあります。症状があらわれたら自己判断せずに、医師に相談しましょう。
病期別にみた前立腺肥大症の症状
前立腺肥大症の症状は3 期に分けられます。第1期は膀胱刺激期ともいい、排尿開始時間の遅れ、残尿感、夜間頻尿といった症状が出始めます。ときには尿意切迫、尿道痛、会陰部不快感なども現れてきますが、残尿はほとんど認められません。第2期になると第1期の症状が強まり、残尿が生じます。そのためこの時期を残尿発生期ともいいます。第3期は代償不全期といい、残尿が増大し膀胱も拡張してきます。さらに進行すると腎機能が低下し、腎不全に陥ることもあります。
前立腺肥大症の診断と検査
排尿障害の原因となる疾患があるかどうかなど病歴を聴取し、以下のような検査を組み合わせ総合的に診断いたします。
IPSS(国際前立腺症状スコア)
自覚症状の程度を点数で表す採点表です。10点以上は専門医への受診をお勧めします。あなたの前立腺はどの程度か試してみてください。
尿流量測定(ウロフローメトリー)
測定装置に向かって排尿することにより、尿の勢いを時間を追って調べます。尿流量が数値とグラフになり、排尿障害の程度が確認できます。前立腺肥大症を診断する場合には?肥大の程度?症状の程度?前立腺がんをはじめとするその他の疾患の合併がないことを確認することが大切です。
超音波検査
前立腺の大きさ、形、内容の観察をします。また残尿(膀胱に残っている尿)量を計測することも出来ます。その他の病気(がんや結石)の有無を診断します。
血液検査(前立腺腫瘍マーカー PSAなど)/尿検査
血液検査を行い、腎機能障害や前立腺がんがないかを確認します。尿検査では前立腺だけでなく、他の臓器の異常がないかチェックします。
前立腺肥大症の注意点
年齢とともに前立腺が肥大し、50歳代の男性の約40~50%、80歳以上の男性では80%を超える人に前立腺肥大症があると言われ、男性の老化現象の一種といえます。
しかしながら、前立腺の大きさと尿の出にくさは必ずしも相関しておらず、前立腺肥大があるからすべての人に治療が必要というわけではありません。肥大した前立腺が尿道を圧迫して排尿障害、頻尿などの症状が出た場合を前立腺肥大症と呼びます。
前立腺肥大症の症状には尿が出にくいと言った排尿症状、トイレが近い、特に夜間の頻尿や尿に間に合わないといった蓄尿症状、また排尿後も尿の切れが悪い、残った感じがすると言った排尿後症状があります。
病気が進行すると、お酒を飲み過ぎたり風邪薬をのんだりした際に突然、自分の力では尿が出せない尿閉という事態になり病院で処置をする必要があります。さらに進行すると、腎臓に負担がかかり腎不全という生命にかかわる危険な状態になる場合もあります。
下記のような自覚症状がある方は、専門医の受診をお勧めします。
- 公衆トイレで他の人より時間がかかる。
- 外出すると、トイレがどこにあるか常に気がかりである。
- 夜、トイレに3回以上起きる。
- おなかに力を入れて排尿している。
- 出し終わっても、残尿感がある。
- 若い頃のように尿が勢いよく出ない。
具体的には、国際前立腺症状スコアというアンケート形式の問診表で自覚症状を確認します。さらに超音波でお腹から前立腺の大きさ(肥大の程度)を調べ、トイレで実際に排尿しておしっこの勢いがどのくらいかを調べる検査(尿流測定)を行います。また50歳以上の男性では前立腺癌を合併することがありますので、採血(PSA:前立腺特異抗原)を行います。
前立腺肥大症の治療は、多くの場合α遮断薬という薬剤の投与を行います。前立腺にはα受容体が豊富に存在して、ノルアドレナリンと言う物質と結合することで、尿道の緊張を高めて排尿困難の原因となっています。そのα受容体を遮断することで尿がスムースにでるようになります。
多くの場合、数日で尿の切れが良くなったなどの効果を実感できます。効果は2~3か月程度で最大となり、3年程度はその効果が持続すると言われています。最近の研究では、前立腺がもともと大きな患者さんでは、α遮断薬の内服を継続しても症状の悪化を認めることが分かってきました。そのような場合には前立腺を縮小させる薬物(5α還元酵素阻害剤)を併用することにより前立腺肥大症の進行を抑えることができます。
最近は、勃起改善剤が前立腺肥大症にも保険適応となり多数の患者さんに処方を行っています。前立腺肥大症は、様々な症状があり、夜間頻尿、尿意切迫感、尿失禁などを合併することもあります。そのような場合には、頻尿を抑える薬物を併用することもあります。
薬物での治療を行っても効果が十分得られない場合は、手術を行うことがあります。ただし、夜間頻尿や尿失禁などの蓄尿症状が強い場合には手術を行っても症状が改善しない場合もありますので、慎重に手術を行えば現在の症状が改善するかどうかを判断する必要があります。手術には種々の方法があります。
現在、日本で最も一般的に行われているのが、電気メスで前立腺を切除する経尿道的前立腺切除術(TURP)という方法です。最近はレーザーを用いて腫大した前立腺をくり抜いて切除する方法(ホルミウムレーザーによる前立腺核出術)や前立腺を蒸散させる手術も行われています。
前立腺が尿の出口を閉塞し、排尿障害を来している患者さんは手術により劇的に症状の改善を認めますが、膀胱の収縮力が弱って排尿困難を来している場合や、膀胱そのものの加齢により過敏となり、頻尿、尿失禁を来している場合は手術後も症状の改善が思わしくないこともあります。
前立腺肥大症の治療 -現在の主流-
前立腺肥大症の治療法は、かつては手術で前立腺を切除するのが主流でした。現在では薬物療法(お薬での治療)が中心となっており、α1遮断薬が前立腺肥大症に伴う排尿障害に対する第1選択薬となっております。一方、前立腺が大きい方や自覚症状が高い方は、将来的に排尿障害が増悪し、尿閉の併発や手術が必要になるリスクが有意に高くなります。このような方には5α-還元酵素阻害薬を併用することでそのリスクが減少することが明らかになっています。
薬物療法 | |
α1遮断薬 | 前立腺や尿道の筋肉をリラックスさせ尿を出やすくさせます(ユリーフ、ハルナール、フリバスなど) |
PED5阻害剤 | 前立腺や膀胱などの血流や酸素供給量が増加し、下部尿路症状を改善させます(ザルティア) |
5α還元酵素阻害薬 | 5α-還元酵素を阻害すると血中テストステロンを低下させずに前立腺そのものを縮小させます(アボルブ) |
生薬 | エビプロスタット:植物エキス製剤 (セルニルトン、アピポーレ:植物花粉エキス) |
漢方薬 | 八味地黄丸(ジオウ、サンシュ、サンヤクなどのエキス末など) |
当院では、薬物療法を中心に、からだに負担のかからない治療、前立腺の肥大の程度・自覚症状・その他の疾患の合併症の有無などを確認しながら、治療を進めていきます。
「ザルティア錠」の処方について
2014年4月17日より排尿障害治療薬ザルティア錠が処方可能となりました。ザルティア錠の成分のタダラフィルは、既に2007年9月から勃起不全治療薬(商品名シアリス)として、2009年12月からは肺動脈性肺高血圧症治療薬(商品名アドシルカ)として臨床使用されています。
タダラフィルは、尿道や前立腺の平滑筋細胞においてホスホジエステラーゼ5(PDE5)を阻害することにより、局所のcGMPの分解を阻害し平滑筋を弛緩させ、これにより血流及び酸素供給が増加し、前立腺肥大症に伴う排尿障害の症状を緩和させます。ED治療薬と同じPDE5阻害作用を利用した前立腺肥大症による排尿障害改善薬は日本で初めてですので大変注目されています。
ザルティア錠は「前立腺肥大症による排尿障害」を適応として厚労省に承認された薬剤です。当院は泌尿器科専門医が診療を行っているクリニックです。「前立腺肥大症診療ガイドライン」に基づき、IPSS・超音波検査・尿流残尿測定などの諸検査をお受けいただき、適応のある方にはザルティア錠を処方させていただいております。排尿障害でお困りの方は是非、ご相談ください。