小児泌尿器科(停留精巣、包皮炎など)
停留精巣(停留睾丸)
胎児の精巣は、妊娠初期にはおなかの中にありますが、通常妊娠7から9か月目に鼠径管を通って陰嚢の中に降りてきます。しかし、男性ホルモンなど何らかの問題で精巣が陰嚢の中まで降りてこず、鼠径管やおなかの中に留まったままで生まれてくることがあります。これが停留精巣という病気です。停留精巣(停留睾丸)とは、精巣が出生時に正常な位置=陰嚢内に位置しない状態のことをいいます。
精巣は、胎児期に腹腔内で形成され、出生の2か月前ごろより次第に陰嚢へ降りてきます。停留精巣は、この精巣が陰嚢に降りる過程が途中で停止したか、または降りる過程の中途であることが考えられます。
新生児の約2~5%の男児が、一側または両側の停留精巣を認めるとされています。37週以前の早期出生児では、より停留精巣が認められやすいことが分かっています。
停留精巣の多くは、出生後の数カ月で自然に精巣が陰嚢内に降りて正常になります。しかし、その後も停留精巣の状態が続く場合は、手術によって精巣を陰嚢内に固定する必要があります。
症状
出生時に停留精巣を認めても、そのうちの70-77%は3ヶ月で自然と下降し、1歳時には1%しか停留精巣の状態ではないとの報告があります。しかしながら1歳の時点で停留精巣だった場合はそれ以上の下降は望めないとされます。停留精巣では、陰嚢内に精巣を触れないこと以外に特別な症状はありません。停留精巣は乳児検診で見つかることがほとんどです。乳児検診の際、医師は触診で陰嚢内の精巣の有無を診察します。精巣は正常でも容易に鼠径部に挙がってしまうため、乳児が泣いたりして診察がしづらい場合は注意が必要です。そのため停留精巣が疑わしい場合は、日を変えるなどして何度か診察する必要があります。
原因
停留精巣の発生原因は、ホルモンバランスの異常や精巣導帯(精巣を陰嚢内に固定している靭帯)の異常等が言われていますが確かな原因は現状では不明です。遺伝的要因や母体要因、環境要因などが、胎児期のホルモン産生や神経系の成育、体の成育に影響を与え、停留精巣になると考えられています。
危険因子
停留精巣には鼠径部や陰嚢内の他の異常(鼠径ヘルニアや精巣上体の付着異常等)やホルモンバランスの異常(視床下部・脳下垂体・精巣のホルモン環境が精巣の下降に必要と言われています。ただし停留精巣の患者さんが必ずしもこのホルモン異常を受診時に伴っているわけではありません)や、尿道の異常(尿道下裂等)などを伴うこともあります。低体重児と未熟児で、新生児における停留精巣の発生率が上昇することが知られています。その他、家族に停留精巣を認めた場合もその発生頻度は高くなるとされています。また母親がアルコールやタバコを摂取した場合も発生率が高くなるとされています。
合併症
停留精巣を治療せずに放置した場合、精巣がんと不妊症のリスクが高くなることが知られています。
- 精巣がん:精巣がんの発生の誘因となるとされています。停留精巣の頻度は0.8%、精巣腫瘍は0.4%の頻度です。停留精巣の4%が腫瘍化するといわれ、全胚細胞腫瘍の10%は停留精巣より発生します。停留精巣は正常の10〜35倍の腫瘍発生リスクを有し、鼠径管内は1%、腹腔内は5%のリスクといわれています。5歳までに固定術をすれば腫瘍発生は稀、10歳までに固定術をすれば腫瘍発生のリスクを大いに軽減するとされ、思春期以後の固定術はリスク軽減に全く影響しないため、摘除すべきといわれています。しかし、腫瘍の早期発見・早期治療につながるよう、精巣を触れやすい陰嚢内に固定しておくことは大切です。1歳以後は自然下降しないので、1歳を過ぎたら診断つき次第手術すべきとされます。停留精巣の腫瘍発生平均年齢は40歳であり、長期の経過観察が必要です。思春期過ぎたら精巣の自己チェック、マーカ−採取が重要です。詳しくはこちら
- 不妊症:精子が発育するのに適した温度環境は、37℃近くあるおなかの中よりも低い温度である陰嚢内が最適と考えられており、精巣がおなか近くにとどまったままの状態では、男性不妊症の原因になるといわれています。停留精巣の場合、精巣の温度が上昇するため、精子の産生が低下し不妊症となります。
検査
陰嚢内に精巣を触れず停留精巣を疑う場合、以下の検査で精巣の正確な位置を診断します。
- 超音波検査
- MRI検査
- 腹腔鏡検査:鼠径部に精巣を認めない場合、腹腔内に精巣がある疑いがあるため、内視鏡で腹腔内を検査します。
治療
停留精巣と診断され、生後6カ月までに改善されない場合、手術で精巣を陰嚢内に固定する手術(精巣固定術)を行います。この理由は、停留精巣の多くは6カ月以内に自然治癒し、6カ月以降には自然治癒することが少ないためです。また停留精巣の治療は、精巣がんや不妊症の発生リスクをなるべく低くするため生後15か月までに行うほうがいいとされています。
精巣固定術は体表から触れる場合は全身麻酔下に鼠径部を1-2cmほど切開して行います。鼠径管外停留精巣は92%の、鼠径管内停留精巣は89%の成功率との報告もあります。
腹腔内停留精巣はMRI等で検索しても確実ではないことが多く、全身麻酔下に腹腔鏡にて精巣の有無、発育の状態を観察し、状況に応じて、①観察のみ、②腹腔鏡下に精巣摘出、③腹腔鏡下に精巣固定、④腹腔鏡下に精巣血管を結紮し後日精巣固定を行う2期的手術、を行います。②のように、精巣が未熟でその後の機能が期待できなければ、固定せずに摘出する場合もあります。
移動精巣
陰嚢内に精巣は降りてはいるが、陰嚢への固定が不十分で挙がりやすい移動精巣という病態があります。2歳以降で陰嚢内に精巣を触れたり触れなかったりする場合があります。精巣につながる精巣挙筋という筋肉が収縮することにより、精巣がときどき挙上する状態のことを指します。これは正常な反応であり、このような筋肉反射は小学生まで続きます。精巣下降は完了しているものの、精巣挙筋の過剰反射と精巣導帯の陰嚢底部への固定不良などのために精巣が鼠径部に移動するもので、原則として手術は不要です。用手的に陰嚢内に引き下ろすことが可能で、手を離してもしばらくは陰嚢内に留まります。停留精巣との鑑別が時に難しい場合がありますので、専門とする泌尿器科の受診をお勧めいたします。本人がリラックスしているときに陰嚢内に左右同じ大きさの精巣を触れるのであれば停留精巣ではなく、原則的には治療の必要はありません。しかし、移動精巣のなかには上昇したまま下降せず、停留精巣の状態になる症例があります。米国の停留精巣診療ガイドラインでは、「移動精巣の患児は1年に一度の専門医によるチェックを受ける」ことを奨めています。
停留精巣は注意して診察しないと分かりにくいものです。乳児検診で停留精巣が疑われた場合は、できるだけ早い時期に泌尿器専門施設で正確な診断を受けるようにしてください。生後6カ月以降は自然下降する可能性が低くなり手術治療が必要となりますので、適切な時期に適切な治療を受けることが肝要となります。
亀頭包皮炎
男の子で、おちんちんの先が赤く腫れて痛がった事はありませんか?特におちんちんの皮の先が赤くなる事が多く、悪化すると全体が赤く腫れ上がってしまいます。そうなるとおしっこをするときも痛がる様になってしまいます。この状態を亀頭包皮炎(きとうほうひえん)といいます。
どうして亀頭包皮炎が起こってしまうのでしょうか?男の子のおちんちんの皮を少し剥いてみてください。その時に、おちんちんの先がどれくらい見えますか?ほとんど剥ける場合は、お風呂に入った時に石けんを泡立てて洗ってあげてください。しかし、小さいうちは全部剥ける子供は少ないのです。亀頭包皮炎を起こしやすいのは、皮を剥こうとしたときに先端が1mm程度の隙間でしか亀頭部位が見えない場合が多いです。この時はおしっこが亀頭と皮の間に残りやすく、炎症を起こしやすくなってしまいます。
それでは、実際に亀頭包皮炎を起こした時はどうすれば良いのでしょうか?炎症が強い時は抗生剤の内服や軟膏を塗ってもらいます。そうすると2,3日で痛み、腫れも落ち着いてきます。包茎が強い事で亀頭包皮炎を起こしやすい場合には、早めに皮が剥ける様にしてあげることで炎症が起こらなくなります。治療には弱めのステロイド軟膏を1日2回程度、朝と夜の入浴後に軟膏を塗りながら少しずつ皮を剥いていきます。もちろん、最初は全く皮も開きませんが、2週間程すると大分開く様になってきます。そこからさらに2週間程軟膏を塗っていると、ほとんど剥ける様になることが多いです。亀頭がほとんど出る様になれば、後は入浴の時に石けんで洗ってあげます。軟膏を塗る際に、最初は嫌がると思います。でも、徐々に慣れてくるので、頑張ってみましょう。お母さんはどうやっていいのかわかりにくいので、お父さんに協力してもらうとやりやすいですよ。
お子さんのおちんちんの状態で、包茎が強めかどうかわからない時は相談してください。大きくなると子供も恥ずかしくなり、お母さんにも言いにくくなります。小さいうちの方が塗りやすいかもしれませんね。
子供のペニスを亀頭包皮炎から守るために
なぜ子供が亀頭包皮炎になるのか?
ひとつの理由は、亀頭包皮炎の原因菌の多さです。原因菌の多くは日常生活の中で決して珍しいものではありません。人間の体内に常に存在する菌も、亀頭包皮炎の原因となり得ます。亀頭包皮炎というと性感染症というイメージがあるかもしれませんが、性行為は感染経路の一部でしかないのです。そのため、性行為を知らない子供でも日常生活の中から原因菌のキャリアとなる可能性は十分にあります。
もうひとつの理由は子供のペニスにおいて一般的である「包茎」です。原因菌の多くは不潔で湿気の多い環境を好みます。包茎ペニスの包皮の中は、こうした条件がそろっているというわけです。包茎だと成人男性でも亀頭包皮炎の発症リスクは高くなりますが、汗をかきやすくペニスを不潔な状態にしやすい男の子の場合はさらに発症の可能性が高くなります。
親によるケアが不可欠
子供たちのペニスを亀頭包皮炎から守るためには、親によるケアが不可欠です。まず、日ごろからペニスを不用意に触らないように教えましょう。幼いうちから癖になっていると、後からの矯正が難しくなります。気づき次第注意するようにしてください。
一緒にお風呂に入った際は、ペニスをしっかりときれいにしてあげてください。この際、石鹸やボディソープを使って清潔にしすぎるのは逆効果です。原因菌のひとつである真菌には石鹸やボディソープは効かないため、細菌のバランスが崩れてしまいます。さっとシャワーで水洗いする程度にとどめてください。入浴後はしっかりとふき取りって、乾燥させましょう。
少しずつ皮をむいていき包茎を治してあげるのも、亀頭包皮炎の予防となります。一気にむくのは負担となりますので、徐々にむいていくようにしましょう。主に育児を担当するのはお母さんかと思いますが、ペニスの問題となるとお父さんの助けが必要です。ご夫婦で協力しあい、お子様のペニスを守ってください。
もし、亀頭包皮炎と思しき症状が現れたら、無理をせずわれわれの助けを求めてください。当院は子供たちの亀頭包皮炎にも対処します。お気軽にご相談ください。
こどもの包茎
包茎とはおちんちんの先端の包皮口が狭いために包皮をむいて亀頭を完全に露出できない状態をいいます。
生まれてきた男の赤ちゃんは包茎の状態が正常です。もし亀頭部全体が包皮でおおわれていないような場合は、むしろ尿道下裂などの先天性のおちんちんの異常を疑う必要があります。男児が出生した時、亀頭は包皮で完全に覆われ、さらに亀頭表面と包皮の内側はぴったりとくっ付いて剥がれない状態です。この時期は包皮の出口(包皮輪)もきつく、あまり伸びないことが一般的です。これが乳児期から幼児期にかけて、亀頭表面と包皮内側の間に脱落した細胞や分泌物が垢として溜まり(恥垢と呼ばれ、白い塊として透けて見えることがあります)、隙間ができるようになって剥がれてきます。学童期にはぴったりとくっ付いていた亀頭と包皮がしっかり剥がれ、さらに時々起こる勃起現象によってきつかった包皮輪も少しずつ引き伸ばされるようになります。
この時期の包皮輪の口径や伸展性には個人差があり、よく伸びるようになっていれば普段は亀頭が包皮に覆われていても、包皮を陰茎の根元に押し下げれば亀頭がしっかり露出するようになります。このようになっていれば亀頭の表面もしっかり洗えるので清潔が保たれます。しかしながら、包皮輪の伸びが不十分で亀頭を露出することができないと、亀頭と包皮の間が不衛生なままとなったり、尿の飛びに影響が出たりと健康上の問題が生じることがあります。
第二次性徴の時期に入ると、男性ホルモンが活発化することにより亀頭や陰茎が急速に発達し、包皮も軟らかく伸びやすくなります。普段でも亀頭先端が次第に露出されるようになります。さらに思春期後期以降は、最終的に勃起をしていない時でも亀頭が露出した状態となります。
したがって以上のような自然経過を考えると、少なくとも思春期までの包茎は病的なものではないのです。包皮がむけない状態がいつ頃まで続くのかはこどもによって様々ですが、生殖器が急激に成長する思春期(12才から15才頃)までは包皮を完全にむいて下げることが出来ない男児は少なくありません。したがって包皮がむけないという理由だけでは、こどものときに手術や特別な治療は不要です。
包茎の問題点
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排尿時の包皮のふくらみ
包皮口が狭いと排尿時におちんちんの先端が風船状にふくらむことがあります(バルーニング現象)。そのためおしっこがあらぬ方向に飛び散りトイレを汚して困るということはありますが、それ自体で尿の出が悪くなって健康状態に影響するようなことは起こりません。
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亀頭包皮炎
3才前後よりおちんちんの先端が赤く腫れて痛がる、ということを男の子は経験することが少なくありません。陰茎は赤く腫れ上がり、膿が出たり排尿する時の痛みを伴うようになります。これは包皮先端の炎症で亀頭包皮炎と呼びます。このような炎症は短期間の抗菌薬の内服や塗り薬でよくなります。何度も繰り返す場合を除けば包茎の治療は必要ありません。ただし、これは不潔な手で触ることなどの要因もありますので、外出後の手洗いを徹底することも重要です。
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恥垢(ちこう)
こどものおちんちんをよく見てみると、包皮の下に黄色い脂肪のかたまりのようなものが透けて見えることがあります。これは皮膚の表面の新陳代謝によりできた垢であり恥垢と呼びます。これにより自然と包皮と亀頭表面の分離が進み、むけやすくなります。通常この垢には細菌はついていません。成長と共に包皮がむけてくると自然に排出されるので、特別な処置は必要ありません。
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尿路感染
研究論文のなかには、生まれたときに環状切除術を受けている男の子の方が受けていない包茎の男の子より乳児期(特に6ヶ月以下)の尿路感染(おしっこに細菌がはいって腎臓や膀胱で炎症を起こす病気)の頻度が低いと報告しているものがあります。しかし尿路感染に関しては衛生環境の影響も多い上、1歳以上では男児の尿路感染はきわめて少なくなり手術の利点はないと考えられています。
包茎治療の必要性
このように小児期の包茎は決して病的なものではありませんので、基本的に治療は不要です。しかしながら、包皮輪がきつ過ぎると健康上の問題が生じることがあり、そのような場合に限って治療を行うことが一般的となっています。
当院では基本的に何もしないで自然経過を見ることをおすすめしていますが、ご両親が治療を希望された場合は次の二つのオプションを説明しています。
包茎に対する治療は、以前では手術を行うのが一般的でした。しかしながら、最近では軟膏を塗って包皮輪を伸ばす治療が広く行われるようになり、良好な治療成績が医学論文で報告されています。
治療
1.軟膏塗布治療
きつい包皮輪にステロイドホルモン含有軟膏を一日2回塗ってその伸展性を改善させる方法です。4~8週間継続すると80~90%以上のお子さんで包皮が剥け亀頭が露出できるようになります。ステロイド剤はコラーゲンの合成を低下させ皮膚を薄くする作用や炎症を抑える作用により包皮の伸展性を改善させるとされ、また、全身への副作用はないことが示されています。
さらに、包皮をやさしく陰茎の根元へと押し下げ、包皮輪に緊張をかけて少しずつ伸ばす包皮伸展訓練を同時に行うとさらに効果的となります。ただし、やみくもに無理に行うと包皮の出血や亀裂を生じ、後に包皮が硬くなったり、嵌頓包茎を引き起こすことがありますので専門医から十分な指導を受けて下さい。
当院では軟膏(リンデロンVG軟膏)を塗布した包皮翻転(ほんてん)指導をおこなっています。包皮をずり下げてむけなくなる狭い部分に少量のステロイドの入った軟膏を朝晩2回薄く塗ります。最初は包皮表面から少量の出血を伴う場合があります。一定期間以上(少なくとも2週間以上)継続する必要があります。
この方法でむけるようになる頻度は高いのですが、むけた後にやめてしまうとまたむけなくなります。毎日お風呂や排尿時に包皮をむく習慣をつけさせてください。一度スムースに剥けるようになった後は軟膏を塗る必要はありません。
最も気をつけなければならない点は、包皮がむけて亀頭が露出できたあとは必ず包皮をもとに戻しておくことです。包皮がむけて亀頭がツルンとでてくるとあわててしまい、むいた包皮を戻さないと皮膚がむくんできて戻らなくなります。亀頭が手前でしめられた形となり腫れ上り大変痛がります。このような状態を嵌頓(かんとん)包茎と呼びます。そうなると泣き叫んで痛がるこどもを連れて救急外来を受診するようなことになりかねません。むくことの出来た包皮は必ずもとに戻せますからあわてず、ゆっくり戻してください。
2.手術治療
包皮輪を含めた余剰な包皮をリング状に切除する環状切除術が一般的に行われます。確かに亀頭を露出させるという目的においては確実な治療方法ですが、自制の困難な小児期には全身麻酔が必要となりますし、頻度は少ないものの尿道の損傷など合併症の可能性もあります。ここで切除される余剰に見える包皮部分には最も鋭敏な感覚をつかさどる組織が含まれているので、将来の性感覚への影響も懸念されます。
したがって最近では、手術治療は、閉塞性乾燥性包皮炎という包皮輪が非常に硬く軟膏塗布療法では全く効果のないようなお子さんに限定して行われるようになっています。
閉塞性乾燥性包皮炎について
亀頭包皮炎を繰り返したり、無理な包皮剥離後や包茎手術後に包皮輪が白色に瘢痕化してしまうことがあります。これを閉塞性乾燥性包皮炎といいます。閉塞性乾燥性包皮炎になってしまうと、ステロイド軟膏などで包皮を翻転することが難しくなります。このような場合には手術治療をお勧めします。
陰嚢水腫(水瘤)
陰嚢水腫とは精巣の周囲に液体がたまって陰嚢(いわゆるたまのふくろ)がふくらんだ状態を言います。生まれたばかりの男の赤ちゃんでは比較的高頻度に認めます。
腹腔内の液体が、細く開存した鞘状突起を通って精巣鞘膜腔内に流入し、精巣のまわりに貯留した状態です。小児期の水腫は鼠径ヘルニアと同じ原因により、鞘状突起が太ければヘルニアとなります。交通性の場合、早朝は小さいですが夕方以降に大きくなります。
男児では精巣は胎児期におなかの中から陰嚢まで下降してきます(停留精巣の項を参照してください)。
この際におなかの臓器を包んでいる薄い膜である腹膜を陰嚢まで引きずって降りてきます。つまり陰嚢には、おなかの中とつながっている薄い膜がしっぽのように入りこんでいて、精巣に付着しています。
出生時頃にこのしっぽの付け根が閉じておなかの中と繋がらなくなりますが、完全に閉じないで開いているお子さんも多数います。この腹膜のしっぽ(腹膜鞘状突起)のつけ根は鼠径部に位置します。しっぽのつけ根が広くおなかと繋がっている場合は腸などがしっぽの中に落ち込んできて陰嚢がふくらみます。これが小児によく見られる鼠径ヘルニア(脱腸)です。腸が落ち込むほど広くはないものの腹膜鞘状突起とおなかの間に狭い交通がある場合は、おなかの中にある水分が陰嚢に降りてきて貯まります。これが小児の陰嚢水腫です。
つまり小児の鼠径ヘルニアと陰嚢水腫は形の上では同じものです。
新生児や乳児の陰嚢水腫はそのまま様子をみて問題ありません。おなか(腹腔)とつながっていますから時々大きくなったり小さくなったりしますが、多くは成長とともに腹膜鞘状突起のつけ根が閉じて腹腔内との交通がなくなり消失します。ただし腸が降りてくる鼠径ヘルニアがある場合は早期の手術をお奨めします。なぜなら落ち込んだ腸がおなかに戻らないと、痛みだけでなく腸閉塞を来す可能性があるからです。陰嚢水腫自体が精巣の成長を障害することはありません。しかし3歳頃になっても消失しない場合や大きくなったり小さくなったりを繰り返している場合は手術をお奨めします。これはその頃にトイレットトレーニングが終了して男児も生殖器を意識し始めるからです。また腹腔内と交通しているわけですから、頻度は低いですが鼠径ヘルニアを起こす可能性も否定できません。
成人の陰嚢水腫に対して行われる穿刺吸引は、小児には行うべきではありません。穿刺直後の再貯留、患児に与える精神的苦痛、発熱・血腫形成・ヘルニア併発時の合併症、などがあり、治療が必要な場合には根治術を行うべきです。絶対的な手術適応となるのは、ヘルニアを合併している症例です。交通性で大きな水腫や緊満した水腫、自然消失を期待できない症例などがそれに準ずる手術適応です。
精巣捻転(精索捻転)
精索がねじれて精巣への血流が途絶する状態で、陰嚢内容の有痛性腫脹(急性陰嚢症)のなかでも最も危急の対応を必要とします。発症後早期に解除されないと精巣が壊死に陥ります。好発年齢は新生児期と思春期前後で、前者は鞘膜外捻転、後者は鞘膜内捻転となります。
捻転は突然発症することがほとんどで、思春期前後の症例は睡眠中に発症することが多いです。突然の陰嚢内の激痛とともに悪心・嘔吐を伴うことがあります。その後、陰嚢腫脹、浮腫、発赤が出現します。
新生児の症例では自発痛、圧痛もなく、これは胎児期、分娩時に発症しかなりの時間が経過し、捻転した精巣を外科的に救済できる可能性がないことを示します。
精巣が陰嚢内で高く吊り上っていたり、横向きになっていれば精索捻転を疑います。しかし、発症から時間が経過して陰嚢浮腫が高度になるとわかりづらくなります。精巣挙筋反射が消失していることは精索捻転を疑わせる重要な所見であり、一方で精巣上体炎や付属器(垂)捻転では反射が認められることが多いです。カラードップラー超音波検査が有用な場合があり、精巣内の血流が消失するとともに、捻転部までの精索内血流が増強します。
精索捻転が疑われたら速やかな手術治療が原則で、発症時刻から数時間以内のゴールデンタイムに捻転解除を目指します。
ミューラー管遺残組織の精巣垂、ウォルフ管遺残組織の精巣上体垂の捻転は思春期前後にみられ、精索捻転のような激痛と腫脹を呈するものから不快感程度のものまであります。発症直後であれば、陰嚢内に局在する圧痛点として認められ、大きめの垂が捻転して梗塞を起こすと皮膚を通して青黒い点(blue dot sign)として観察されます。本症と確実に診断できれば絶対的な手術適応ではなく、実際、捻転した垂が壊死すれば症状は軽減します。ただ精索捻転が否定できないことも多く、外科的処置(捻転した垂を摘除)も検討されます。
傍尿道口嚢胞
傍尿道腺管の閉塞による貯留嚢胞です。
男児では外尿道口の左右どちらかまたは両側に、漿液性内容の嚢胞が形成されます。無症状なら経過観察とし、不用意な穿刺は避けるべきです。著明に増大し尿線の異常をきたしたり、外観的に許容範囲を超えたりする場合には、手術として完全摘除術を行います。
女児の場合は外尿道口の6時の位置に腫瘤が形成され、内容は乳白色の粘液や黄色の混濁膿であることが多いです。スキーン腺嚢胞(Skene's duct cyst)といい、自壊することが多いので経過観察します。感染症状が強ければ、穿刺排膿、開窓術、完全摘除術を行います。
尿道下裂
尿道口が亀頭先端より手前の陰茎腹側に開口する陰茎の先天異常であり、陰茎が腹側へ彎曲していることが多いです。尿道口の位置により、遠位型(亀頭、冠状溝から陰茎中央部付近まで)と近位型(陰茎近位部、陰茎陰嚢移行部から陰嚢部・会陰部まで)に分類されます。
症状は立位排尿と性交渉が困難なことで、外観の異常が男性のアイデンティティ確立の障害となる場合があります。
治療として、陰茎の彎曲を是正する陰茎形成術と新尿道を作る尿道形成術を、同時に行う一期的手術と別々に行う二期的手術があります。
尿道口が亀頭先端に開口していても陰茎が彎曲する索変形(彎曲陰茎)という病態があり、尿道海綿体が脆弱あるいは欠損している場合と、それが完全に形成されている場合とがあります。
膀胱尿管逆流症(VUR; vesicoureteral reflux)
膀胱尿管逆流症とは
腎臓から作られた尿は、尿管を通り膀胱へ一方通行で流れます。正常では尿管の出口(尿管口)には逆流防止弁の仕組みが備わっていて、膀胱に溜まった尿が腎臓へ流れることはありません。しかしこの尿管口の異常で膀胱の尿が腎臓へ逆流する病気があります。これを膀胱尿管逆流症(VUR; vesicoureteral reflux)と呼びます。腎臓(左右二つある)から尿管(腎臓と膀胱をつなぐパイプ)、そして膀胱へと流れていく尿が、おしっこをするときに膀胱から尿管、腎臓へと逆もどりします。英語の略語でVUR(ブイ・ユー・アール)と通常呼ばれ、乳児では100人に1人ぐらいの頻度で認められます。1才以下では男の子で多く見つかりますが、それ以上の年齢になると女の子に多く見つかります。正常では膀胱と尿管のつなぎ目がしっかりしていて、おしっこをするときにはこのつなぎ目が閉じて、膀胱の出口(尿道)からだけ尿が出ます。膀胱尿管逆流のお子さんではこのつなぎ目が閉じきれず、尿管のほうへ漏れてしまう(逆流する)わけです。
こどもの発熱、特に赤ちゃんの発熱の原因の5~10%におしっこに細菌が浸入するために起きる尿路感染があります。細菌(ほとんどが大腸菌)はおしっこの出口から膀胱に入ってきますが、ここで侵入が止まれば膀胱炎になることはあっても熱は出ません。ところが膀胱尿管逆流のあるお子さんは、おしっこをするたびに、膀胱の出口からおしっこが出るだけでなく尿管の方にもおしっこが逆戻りするために、細菌が腎臓まで送り込まれてしまいます。腎臓は体の中でもっとも血液の豊富な臓器であり、ここに細菌が取り込まれると39~40℃という高熱を出しやすいのです。これを腎盂腎炎と呼びます。もちろん逆流がなくても腎盂腎炎は起きることがありますが膀胱尿管逆流のあるお子さんでは、その頻度が高いのです。1歳以下の赤ちゃんで腎盂腎炎を起こした場合、きちんと調べると半数以上に膀胱尿管逆流が見つかります。
逆流がない場合は膀胱炎で治癒するものが、逆流があると腎臓まで細菌が到達し腎盂腎炎といわれる腎臓の感染症を起こしやすくなります。この腎盂腎炎を繰り返すと、腎臓の組織が破壊され、腎機能の低下を引き起こすこととなります。
膀胱から尿管への尿の逆流が高度な場合、水腎症や水尿管症といわれる腎盂や尿管の拡張をきたすことがあります。しかし膀胱尿管逆流症自体は無症状で、痛みや排尿の異常等の症状は認めることはあまりありません。
膀胱尿管逆流症の発生頻度
膀胱尿管逆流症は小児の1%に認められるといわれています。その多くは尿路感染症をきっかけに診断され、ときに出生前超音波検査によって尿路の異常から診断される場合もあります。また膀胱尿管逆流症の治療を受けている子供の約75%は女児であり、女性に多い傾向があります。
膀胱尿管逆流症には遺伝的側面もあり、膀胱尿管逆流症を認めたお子さんの兄弟姉妹の3人に1人は、同様に膀胱尿管逆流症があるとされています。またお母さんに膀胱尿管逆流症があった場合、お子さんの50%に膀胱尿管逆流症を認めるとされています。
膀胱尿管逆流症の診断
膀胱尿管逆流症は排尿時膀胱造影といわれるレントゲン検査によって診断します。これは造影剤を膀胱内に充満させ、その後排尿している間のレントゲン撮影を行うことによって逆流の有無を診断します。また膀胱尿管逆流症が認められた場合、腎機能と腎のダメージを評価するために腎シンチグラムという放射線アイソトープを用いたRI検査も行われます。
膀胱尿管逆流症の分類と重症度分類
1)原発性膀胱尿管逆流症
尿管膀胱接合部の先天性形成不全により発生します。小児に多い形態です。
2)続発性膀胱尿管逆流症
尿管膀胱接合部の機能的、器質的な異常に加え尿道弁や尿道狭窄あるいは神経因性膀胱などの下部尿路通過障害が存在することによって膀胱内圧が上昇して逆流を生じる場合をいいます。
Gradingは1度から5度の5段階に分類されており5度なるほど高度逆流となります。これは治療選択にも重要な位置をしめており、治療成績や再発頻度と関係があります。排尿時膀胱造影での逆流の程度と水腎症の程度によって以下の5段階に重症度が分類されます。重症度に応じて治療法を選択します。
- I 度 逆流は尿管まで
- II 度 逆流は腎盂に達し、水腎症(腎盂の拡張)はない
- III 度 逆流は腎盂に達し、水腎症は軽度
- IV 度 逆流は腎盂に達し、水腎症は中等度
- V 度 逆流は腎盂に達し、水腎症は高度で尿管のねじれを認める
膀胱尿管逆流症の治療法
どのような治療をいつ行うかについては,子供の年齢と性別(男女),逆流の程度,腎臓の傷の有無,尿路感染症の頻度と程度などを総合的に考えて判断することになります。専門の先生と相談されることをお勧めします.膀胱尿管逆流症の多くは年齢とともに改善し自然治癒します。その理由として、成長とともに膀胱も成長するため、尿管口の逆流防止が機能するようになるからです。そのため膀胱尿管逆流症の治療においては、膀胱尿管逆流症が自然治癒するかどうかの見極めが重要になります。自然治癒すると見込まれれば保存的治療(尿路感染症の予防及び腎臓ダメージの予防)を行い、自然治癒が見込めない重症の膀胱尿管逆流症であれば手術療法を行います。
治療の目的は腎盂腎炎の発生や腎障害の進行を防ぎ、小児の場合は腎臓の発育を正常に戻すことにあります。軽度の逆流症では経過を見ていても自然に消失することもありますが、発見の時点で尿管や腎への影響がある場合は逆流防止のためにお膀胱と尿管を新たに吻合する手術(膀胱尿管新吻合術)をします。治療成績は良好で、膀胱尿管逆流症の消失率は約70%です。最近は、膀胱尿管新吻合術を腹腔鏡を利用して行うことも可能になっています(腹腔鏡下手術)。
内視鏡を用いて膀胱の尿管の出口のまわりに少量の膨隆剤を注入して逆流防止機能を人工的につくるという方法も行われています(内視鏡下注入療法)。切開手術に比べて患者さんへの負担は少ないものの、膀胱尿管逆流症の消失率は約70%です。
治療は尿路感染予防のため少量の抗生物質あるいは抗菌薬を継続的に服用する方法と,逆流そのものを手術で止める方法とに分かれます。
保存的治療
低用量の抗菌剤を投与しながら定期的に膀胱造影を行い、膀胱尿管逆流症の自然消失を待つ方法です。低年齢で重症度の低いものほど自然治癒する可能性が高いとされます。
ごく軽い逆流(Grade I)が乳児に見つかった場合には自然に改善することもあるため経過観察を行うこともあります。軽度の場合(Grade II~IV)は内視鏡を用いて膀胱内にある尿管の出口周辺にヒアルロン酸Naとデキストラノマービーズの合剤を注入し、人工的に弁を作ってしまう方法も行われています。一回の注入で逆流が抑制できない場合には繰り返して行うことで逆流を治療します。開腹手術ではないため患者さんの負担も軽度です。
手術療法
重度の場合は、尿路感染症を繰り返し、腎臓の機能への影響も懸念されるため、手術的な治療が行われます。膀胱を切開し尿管を切断してあらたに尿管の出口を膀胱に作り直す手術を行います。手術的に尿管と膀胱を新しく吻合することによって尿管への逆流を防止させる方法です。手術治療はおなかを切開して行う方法と,内視鏡を用いる方法とがあります。以下の場合手術療法を行います。
- 重症度が高度の場合
- 重症度が中等度で保存的治療を1年行っても改善しない場合
- 重症度がいずれの場合でも保存的治療中に逆流が悪化した場合
- 腎機能が低下した場合
- 腎瘢痕(腎シンチグラムによる腎のダメージ)が高度な場合
- 思春期を過ぎた場合(思春期以降は自然治癒が期待できない)
- 尿路感染症を繰り返す場合
このように膀胱尿管逆流症の多くは小児期に発見され、軽症のものであれば自然治癒が見込まれる疾患です。しかしながら小児期に尿路感染症が見逃されたたり、まれに尿路感染を起こさなかったため、成人になってから膀胱尿管逆流症が発見される場合があります。思春期以降の女性で、月経や性交渉に伴い膀胱炎発症の頻度が増加することはよく知られていることですが、膀胱尿管逆流症が存在すると膀胱炎から腎盂腎炎に進展しますので、腎盂腎炎を繰り返す場合は膀胱尿管逆流症を疑い検査を行う必要があります。
いずれにせよ適切な時期に適切な治療を行うことによって治癒可能な疾患ですので、尿路感染症を繰り返す場合には泌尿器科専門医の適切な診断を受けるようにしてください。